シューベルト歌曲集「冬の旅」作品89 D.911(全曲)訳詞
Die Winterreise / Franz Schubert


冬の旅  ヴィルヘルム・ミュラー
訳詩:神崎昭伍

※テキストデータのためウムラウトなどは省略しています。


8 回 顧


氷と雪ばかりを堆んでいるというのに
私の両の足のうらは燃えるようだ.
塔がもう見えなくなるまでは,
息をいれようとは思わない.

石のすべてに私はつまづいた.
こんなふうに私は街から出ようと急いだ.
鳥たちは家という家から
私の帽子に雪のたまや雹を投げつけた.

何とちがったふうにお前は私をむかえいれたことか,
お前,不実の街よ!
お前の明るい窓辺には
雲雀とナハティガルが歌を競っていた.

こんもりと茂った菩提樹は花をひらき
澄んだ小川は明るくせせらぎの音をたて,
そしてああ,少女の眼が二つ輝やいていた.
そのとき,お前の運命は砕けたのだ.

その日のことを思い出すと,
もう一度ふりかえりたくなる,
ふたたびよろめきもどり
あのひとの家の前に静かに立ちたくなる.


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