シューベルト歌曲集「冬の旅」作品89 D.911(全曲)訳詞
Die Winterreise / Franz Schubert


冬の旅  ヴィルヘルム・ミュラー
訳詩:神崎昭伍

※テキストデータのためウムラウトなどは省略しています。


5 菩 提 樹


城門の前の泉のそばに,
一本の菩提樹がある.
私はその樹かげで
多くの甘い夢を見た.

その樹肌に
多くのいとしい言葉を刻んだ,
喜びにつけ悲しみにつけ私は
その樹の方へと引かれる思いがした.

今日もまた私は真夜中に
そこを通りすぎることとなった.
そのとき闇こつつまれた中で私は
なおも眼を閉じた.

そして菩提樹の枝はぎわめき
私に呼びかけているようだった.
「私のところへおいで,友よ,
ここに安らぎがある!」と.

冷たい風がまっすぐに
私の顔に吹きつけ,
頭から帽子がとんで行ったが,
私はふりむかなかった.

いま私はあの場所から
何時闇も離れたところにいるが,
ぎわめきはずっときこえている.
「あそこにお前のやすらぎがある!」と


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